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インボイス制度が簡易課税制度に与える影響は?簡易課税のメリットや手続きも解説

インボイス制度がスタートし、事業者にはそれぞれの状況に応じた判断や対応が求められています。インボイス制度の導入により、簡易課税制度に変更点はあるのか気になっている企業も多いでしょう。本記事では、インボイス制度開始による簡易課税への影響について解説します。

目次[非表示]

  1. 1.インボイス制度とは?
  2. 2.簡易課税制度とは?
    1. 2.1.一般課税(本則課税)との違い
    2. 2.2.簡易課税制度における「みなし仕入率」
  3. 3.インボイス制度導入による簡易課税制度への影響は?
    1. 3.1.簡易課税制度の変更点はなし
    2. 3.2.適格請求書を発行するためには登録が必要
  4. 4.インボイス制度では一般課税と簡易課税のどちらがおすすめ?
    1. 4.1.一般課税が適しているケース
    2. 4.2.簡易課税が適しているケース
  5. 5.簡易課税を選ぶ3つのメリット
    1. 5.1.業務負担が軽減される
    2. 5.2.納税額を把握しやすくなる
    3. 5.3.納税額を抑えられる場合がある
  6. 6.簡易課税を選ぶ2つのデメリット
    1. 6.1.複数事業を手がけていると計算が複雑
    2. 6.2.納税額が増えるケースもある
  7. 7.インボイス制度の2割特例について
  8. 8.簡易課税制度を利用するための手続き方法
  9. 9.簡易課税を選ぶ際の注意点
    1. 9.1.2年間は一般課税に切り替えられない
    2. 9.2.高額特定資産の取得から3年は簡易課税に切り替えられない
  10. 10.まとめ

インボイス制度とは?

インボイス制度とは、2023年10月からスタートした新しい制度です。インボイス制度の開始により、買い手が仕入税額控除の適用を受けるためには、売り手から「適格請求書」を受け取らなければならない決まりとなりました。

なお、適格請求書は、適格請求書発行事業者として登録された課税事業者でないと発行できません。そのため、適格請求書を発行するためには、課税売上1,000万円以下でも課税事業者になる必要があります。適格請求書を発行できなければ取引先が仕入税額控除を利用できないため、課税事業者にならないことを理由に契約を打ち切られるリスクが高まる点が問題視されています。

簡易課税制度とは?

簡易課税制度とは、売上にかかる消費税額を基礎として、仕入れにかかる消費税額を算出できる制度です。簡易課税制度を利用するためには、所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出したうえで、次の要件を満たす必要があります。

  • 個人事業者の場合:前々年における課税売上高が5,000万円以下
  • 法人の場合:前々事業年度における課税売上高が5,000万円以下

一般課税(本則課税)との違い

通常、消費税の納税額の計算式は次の通りです。

売上にかかる消費税額 - 仕入にかかる消費税額

これを、一般課税や本則課税と呼びます。一般課税では、売上と仕入それぞれにかかる消費税額を算出しなければなりません。計算が複雑になることで、事業主に負担がかかるケースもあります。

一方、簡易課税制度では、消費税の納税額を次のように計算します。

売上にかかる消費税額 - 売上にかかる消費税額 × みなし仕入率

売上にかかる消費税額のみで納税額を算出できるため、一般課税に比べ、確定申告時の事業主の負担は軽減されるでしょう。

簡易課税制度における「みなし仕入率」

簡易課税制度における「みなし仕入率」は、事業区分ごとに定められています。

事業区分

みなし仕入率

第1種事業(卸売業)

90%

第2種事業

(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る))

80%

第3種事業

(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業)

70%

第4種事業

(第1種事業、第2種事業、第3種事業、

第5種事業および第6種事業以外の事業)

60%

第5種事業

(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業

(飲食店業に該当するものを除く))

50%

第6種事業(不動産業)

40%

※引用:No.6505 簡易課税制度|国税庁

自社の属する事業区分がわからない場合は、国税庁のフローチャートを活用すると便利です。

※参照:簡易課税の事業区分について(フローチャート)|国税庁

インボイス制度導入による簡易課税制度への影響は?

ここからは、インボイス制度開始後の簡易課税制度への影響について解説します。

簡易課税制度の変更点はなし

結論からいうと、インボイス制度の導入以降も、簡易課税制度の変更はありません。インボイス制度は一般課税の仕入税額控除にかかわる制度です。そのため、導入後も簡易課税制度は従来どおりとなります。

つまり、簡易課税制度を選択している事業者や企業は、適格請求書を受け取る必要はありません。消費税の計算もこれまでどおりに行えます。また、これから課税事業者になる事業者や企業も、簡易課税制度を利用すれば事務作業を軽減できます。

適格請求書を発行するためには登録が必要

簡易課税制度を利用していても、取引先に適格請求書を発行するためには、適格請求書発行事業者への登録が必要です。自社が適格請求書を必要としなくても、取引先からの要望次第では適格請求書発行事業者への登録を検討しなければなりません。

発注側が一般課税で消費税額を計算している場合、受注者が発行する適格請求書がなければ仕入税額控除を利用できず、消費税納税の負担が増してしまうためです。

ただし、取引先との関係性を考えて適格請求書発行事業者になる場合、さまざまな対応が必要になり、業務負担が増すリスクがあります。

インボイス制度では一般課税と簡易課税のどちらがおすすめ?

ここからは、インボイス制度下において一般課税が適しているケースと、簡易課税が適しているケースをそれぞれ紹介します。

一般課税が適しているケース

簡易課税では「課税売上額」と「みなし仕入率」をもとに消費税を算出します。課税仕入額も設備投資も考慮しません。つまり、建物の購入をはじめ、大きな設備投資があった年度は、一般課税の方が納税額を抑えやすいといえるでしょう。また、業種の傾向として、売上に対する仕入れや経費の比率が高い場合は一般課税が適しています。

簡易課税が適しているケース

仕入が少ない業種に属する事業者は、簡易課税の方が納税額を抑えやすいでしょう。他にも、経費のうち、人件費が占める割合が高い業種にも簡易課税がおすすめです。

簡易課税を選ぶ3つのメリット

一般課税ではなく簡易課税を選んだ場合、次のようなメリットを期待できます。

業務負担が軽減される

簡易課税は一般課税に比べて消費税額の計算が容易なため、経理業務の負担が軽減されるでしょう。

また、一般課税では、課税売上と非課税売上のどちらか一方にかかるのか、どちらにもかかるのかといった区分での管理が必要になる場合もあります。しかし、簡易課税ではそうした管理の手間も軽減されます。

納税額を把握しやすくなる

みなし仕入率は、事業区分ごとに決まっています。そのため、期末に売上高を予測できるようになった時点で、その年度の消費税納税金額もある程度把握できます。消費税の納税額を予測できることで、資金繰り対策につながる点もメリットの1つです。

納税額を抑えられる場合がある

みなし仕入率で消費税を計算すると、一般課税の計算方法よりも税額が低くなる場合があります。具体的には、「実際の仕入れにかかる消費税額」よりも「売上にかかる消費税額×みなし仕入率」の金額が大きくなる場合が該当します。

例として、年間の課税売上高が3,000万円、課税仕入額が1,500万円の小売業(みなし仕入率:80%)における計算例を紹介しましょう。

▼一般課税の場合
3,000万円 × 10% - 1,500万円 × 10% = 150万円

▼簡易課税の場合
3,000万円 × 10% - 300万円×80% = 60万円

上記の通り、2つの制度を比較すると納税額が大きく異なることがわかります。

簡易課税を選ぶ2つのデメリット

簡易課税は事業者にとってメリットも大きい一方、次のようなデメリットも存在します。

複数事業を手がけていると計算が複雑

みなし仕入率の事業区分において複数種類の事業を営む場合は、それぞれの事業について、異なるみなし仕入率を乗じる必要があります。そのため、幅広い事業を手がけている場合は計算が複雑になり、かえって業務負担が増してしまう恐れもあるでしょう。

納税額が増えるケースもある

簡易課税では設備投資の支出が考慮されないため、設備投資や仕入れが大きな年は納税額が増える場合があります。

また、みなし仕入率が小さい業種も、簡易課税を選択すると納税額が増えてしまうリスクもあるので注意が必要です。

インボイス制度の2割特例について

2割特例は、インボイス制度の導入を機に、免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者に適用されます。適用されると、消費税の納税額が売上にかかる消費税額の2割になります。

2割特例の適用要件は、以下の通りです。

  • 適格請求書発行事業者として登録している
  • 基準期間の課税売上高が1,000万円以下
    (個人事業主:2年前、法人:原則2事業年度前)

2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間において、最大4回まで適用可能です。簡易課税より納税額を抑えられる場合は、利用を検討してみましょう。

なお、2割特例の期間が終了したあとは、通常どおり簡易課税を利用できます。

簡易課税制度を利用するための手続き方法

簡易課税制度を利用するためには、所轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。申請は持ち込みや郵送のほか、e-Taxでも可能です。

届出書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。なお、提出期限は、適用を受けようとする課税期間の前日です。

簡易課税を選ぶ際の注意点

簡易課税を選ぶ場合は次の2つのポイントに注意しましょう。

2年間は一般課税に切り替えられない

一度、簡易課税制度を選択すると、2年間は継続する必要があります。途中で一般課税にしたいと思っても、簡易課税制度を2年連続で適用された後でないと切り替えはできないため、注意が必要です。先々の事業計画を見越して、どちらの制度を利用するか慎重に検討しましょう。

なお、簡易課税制度から一般課税に切り替える場合は、課税期間初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。

高額特定資産の取得から3年は簡易課税に切り替えられない

高額特定資産とは、1つの取引単位につき支払対価(税抜)が1,000万円以上の棚卸資産および調整対象固定資産のことです。なお、調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物およびその附属設備、構築物、機械および装置、船舶、航空機、車両および運搬具、工具、器具および備品、鉱業権その他の資産で、1つの取引単位の価額(消費税および地方消費税に相当する額を除いた価額)が100万円以上のものを指します。

高額特定資産を取得すると、その高額特定資産を取得した年度の初日から3年間は簡易課税に切り替えられません。ただし、もともと簡易課税を選択していた場合は、そのまま利用できます。

まとめ

インボイス制度の開始による、簡易課税制度への影響はほとんどありません。これまで簡易課税制度を利用していた事業者や企業は、今後もこれまでと同じように簡易課税制度を利用できます。

ただし、取引先との関係性によっては適格請求書発行事業者への登録が必要になることもあるでしょう。さまざまな状況を総合的に判断し、自社に適した制度を選択することが大切です。

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