業務委託契約において作業場所の指定は違法?違法なケース・適法なケースを解説
人材不足に対応するため、業務委託を活用する企業は増えています。業務委託をするにあたって、「受託者に対して、作業場所を指定しても問題はないのか」と気になっている人も多いのではないでしょうか。本記事では、業務委託契約において、作業場所を指定することの違法性や注意点を解説します。違法なケース、適法なケースをそれぞれ紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.業務委託契約の特徴と種類
- 2.業務委託契約における作業場所の指定は違法?
- 3.業務委託契約において作業場所の指定が違法になるケース・ならないケース
- 3.1.作業場所の指定が違法になるケース
- 3.2.作業場所の指定が適法になるケース
- 4.下請法が適用される場合は作業場所の明示が必須
- 4.1.下請法とは
- 4.2.下請法が適用される条件
- 5.業務委託契約における作業場所の指定は「偽装請負」になる恐れあり
- 6.偽装請負が問題視される理由
- 6.1.待遇の悪化や不安定化につながる
- 6.2.中間搾取に該当する恐れがある
- 7.偽装請負とみなされた場合の罰則・影響
- 7.1.法的な罰則
- 7.2.経済的・社会的な影響
- 8.作業場所の指定が避けられない場合の対処法
- 9.偽装請負を回避するための注意点
- 9.1.偽装請負の典型的なケースを把握しておく
- 9.2.現場担当者にヒアリングする
- 9.3.抜き打ちチェックを実施する
- 10.まとめ
業務委託契約の特徴と種類
業務委託契約とは、自社の業務を外部に委託する際に結ぶ契約のことです。業務委託契約には、請負契約・委任契約・準委任契約の3種類があります。
請負契約
請負契約とは、業務の完成に対して報酬を支払う契約形態です。そのため、受託者には成果物の納品義務が生じます。たとえば、システム開発を発注した場合、依頼したシステムの完成・納品をもって報酬を支払います。
委任契約
委任契約とは、業務の遂行を目的とした契約形態です。なかでも委任契約の場合は、弁護士や税理士への依頼のように、法律行為を委託する場合に締結されます。請負契約とは異なり、委任契約では成果物の有無にかかわらず報酬を支払う必要があります。
準委任契約
準委任契約とは、業務の遂行を目的とした契約のうち、法律行為以外を委託するものです。基本的な内容は委任契約と同じで、成果物の有無にかかわらず報酬を支払います。
上記のように、労働力や労働時間を報酬の対象とする準委任契約を「履行割合型」とも呼びます。また、近年では、成果物の納品を報酬の対象とした「成果完成型」という準委任契約も見られるようになりました。
準委任契約は、請負契約と比べて契約内容に柔軟性があるので、仕様変更が生じやすいシステム開発に適しているといえます。
業務委託契約における作業場所の指定は違法?
民法第521条では「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定できる」と定められています。そのため、作業場所の指定は原則違法ではありません。
しかし、業務委託においては、違法になるケースとならないケースがあります。これは、昭和60年に発行された「労働基準法研究会報告」に基づくものです。違法性の判断基準は、次項で詳しく解説します。
業務委託契約において作業場所の指定が違法になるケース・ならないケース
ここからは、業務委託契約において作業場所の指定が違法になるケース、ならないケースをそれぞれ解説します。
作業場所の指定が違法になるケース
作業場所を指定する目的が「受託者に指揮命令をするため」である場合は違法となります。
使用者と労働者の指揮命令関係は、雇用関係がある場合に成立するものです。一方、業務委託では、委託者と受託者との間に雇用関係はありません。そのため、企業は、受託者に対する指揮命令権を認められていません。
作業場所の指定が適法になるケース
労働者への指揮命令を目的としないものであれば、作業場所を指定することが可能です。たとえば、「労働基準法研究報告会」では、イベントでの演奏のように業務の性質上必要な場合や、建設作業のように安全確保のために必要な場合は、作業場所および時間の指定は必然であるとしています。
下請法が適用される場合は作業場所の明示が必須
下請法が適用されるケースでは、受託者に対して作業場所を必ず明示しなければなりません。
下請法とは
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、発注者としての立場や資本力における優位性を利用した不当な取り引きを禁止する法律です。立場が弱くなりがちな下請け業者を守ることを目的としています。
下請法では、発注者が下請け業者に書面で交付しなければならない内容を定めており、そのなかには「下請事業者が委託を受けた役務を提供する場所」も含まれています。つまり、作業場所を指定しない場合には、その旨を記載しなければなりません。
下請法が適用される条件
下請法はすべての取り引きが対象になるわけではなく、発注者と下請け業者の資本金による定めがあります。具体的には、業務内容ごとに次のパターンが対象となります。
▼業務内容
- 物品の製造委託、修理委託
- 情報成果物作成委託、役務提供委託(プログラムの作成、運送、物品の倉庫における保管や情報処理に関するもの)
親事業者の資本金 |
下請け業者の資本金 |
|
パターン1 |
3億円超 |
3億円以下(個人を含む) |
パターン2 |
1,000万円超3億円以下 |
1,000万円以下(個人を含む) |
▼業務内容
- 情報成果物作成委託、役務提供委託(プログラムの作成、運送、物品の倉庫における保管や情報処理に関するものを除く)
親事業者の資本金 |
下請け業者の資本金 |
|
パターン1 |
5,000万円超 |
5,000万円以下(個人を含む) |
パターン2 |
1,000万円超5,000万円以下 |
1,000万円以下(個人を含む) |
※参照:
業務委託契約における作業場所の指定は「偽装請負」になる恐れあり
偽装請負とは、実態としては労働者派遣であるにもかかわらず、形式上は業務委託契約を結んで偽装することです。
業務委託契約では、受託側の作業者に対する指揮命令や、業務についての細かな指示は禁止されています。一方、労働者派遣契約では、上記のような直接指示が可能です。
つまり、偽装請負とは、労働者派遣契約を結ばなければ認められない行為を業務委託契約で行っている状態を指します。偽装請負は違法行為となるため、発覚した場合、委託者は法的責任を問われかねません。
偽装請負が問題視される理由
そもそも、なぜ労働者派遣では指揮命令ができて、業務委託ではできないのでしょうか。ここからは、偽装請負が問題視されている背景を解説します。
待遇の悪化や不安定化につながる
労働者派遣や労働者供給は、法律による厳しい制限を受けています。労働者の待遇や労働環境の悪化・不安定化を防ぐためです。
一方、業務委託契約にはこうした規制が働きません。そのため、業務委託を結んで労働者派遣や労働者供給のように扱うと、労働者が適切な保護を受けられなくなるという問題があります。
中間搾取に該当する恐れがある
中間搾取とは、中間に入る業者が労働者から利益を搾取することです。中間搾取は労働基準法により禁止されており、労働者派遣について労働者派遣法による規制があります。
しかし、偽装請負ではこうした法による規制が適用されません。その結果、違法な中間搾取により労働者の報酬が不当に下がってしまう恐れがあります。
偽装請負とみなされた場合の罰則・影響
ここからは、偽装請負とみなされた場合に科せられる罰則や、影響について解説します。
法的な罰則
偽装請負とみなされた場合、次のようなペナルティを科せられる恐れがあります。
- 労働者派遣法違反による行政指導
- 職業安定法違反による1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 労働基準法違反による1年以下の懲役または50万円以下の罰金
経済的・社会的な影響
偽装請負が発覚した場合は、社名を公表されるケースもあります。その結果、社会的信用の失墜やイメージダウンにより、業績に悪影響が及ぶ可能性もあるでしょう。
昨今は、企業のコンプライアンスが重視されています。SNSをはじめ、インターネット上で情報が拡散されることにより、企業活動に大ダメージを受ける恐れがあります。
作業場所の指定が避けられない場合の対処法
受託者に対して作業場所の指定が避けられない場合は、次のように対処しましょう。
契約書に指揮命令関係がないことを明記する
作業場所の指定自体は違法ではなく、指定する理由が適法なものであれば問題ありません。契約書で理由を明確に記載したうえで、指揮命令ではないことを示しましょう。また、契約書では作業場所以外の要素(作業時間、仕事のやり方など)に関しては、受託者が自主的に決定可能であると示すことが大切です。
偽装請負とみなされるポイントを回避する
偽装請負とみなされる判断基準を理解し、回避に努めましょう。たとえば、次のようなポイントをチェックすることが大切です。
- 業務に関して直接指示を出していないか
- 勤務時間や休憩、休日について指示を出していないか
- 備品や資材、資金の支給を通じて業務の実質的な支配や管理をしていないか
- 単なる肉体労働の提供ではないか
偽装請負を回避するための注意点
偽装請負を回避するためには、次のポイントに注意することが大切です。
偽装請負の典型的なケースを把握しておく
偽装請負を回避するために、典型的なケースを把握しておきましょう。
代表型 |
発注者が業務の細かい指示を出したり、出退勤を管理したりしているケース |
形式だけ責任者型 |
受託者側の現場責任者を設置しているが、発注者からの指示を労働者に伝えているだけで、実態としては発注者が直接指示を出している場合と同じになっているケース |
使用者不明型 |
請負が何重にも発生し、複数の事業者から指示を受けているせいで使用者が不明確になっているケース |
1人請負型 |
労働者をあっせんしたが、供給先が労働者と雇用契約ではなく請負契約を結び、供給先の指揮命令下で働かせるケース |
現場担当者にヒアリングする
偽装請負にあたるか否かは、契約書の内容だけでなく業務実態で判断されます。偽装請負とみなされる状況に陥っていないか、現場担当者にヒアリングを実施し、業務実態を調査しましょう。受託者が自社の指揮命令下に置かれていないか、現場の実態を把握します。
抜き打ちチェックを実施する
現場の実態を正しく把握するためには、抜き打ちチェックも有効です。抜き打ちチェックを実施する場合は、あらかじめチェックリストを作成しておくとよいでしょう。
まとめ
労働者の作業場所を指定すること自体は法律で認められています。しかし、業務委託契約においては、労働者に指揮命令をすることを目的とした作業場所の指定は違法行為です。また、業務委託契約における労働者への直接指示は偽装請負とみなされ、社会的信用や企業イメージの低下につながるだけでなく、法的な罰則を科せられる恐れもあります。
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